「ゆめまぼろしのごとくなり」(『人魚を見た人』より)

 その日は不思議な日で、夜、Tに会ったのとは関係なく、昼間、私は学校にいた頃からほぼ五十年ぶりに、しかもそれ以来初めて、もと東京美術学校の本科、現東京芸術大学美術学部の構内を、奥の方まで歩いてみたのだった。そこの芸術資料…Read More

田島隆夫 1987(パンフレット「画廊から」より)

 今年の個展の絵を決めに田島さんの家へ行こうと思い、電話で都合を訊くと、  「お目に掛けられるようなものがあるかどうか、今年は本当にだめなんですよ」 と、田島さんは、まるで畠の収穫のことみたいな返事をする。しかし、私はも…Read More

「猫は昨日の猫ならず」 ( 『セザンヌの塗り残し』 より )

・・・・・・・・・  こんなことがあった。あるとき、たぶん外房あたりの海の、どこかの断崖を描いたと思われる二十号くらいの油絵を預かって画廊に掛けていたが、偶然画面に手が触れると、一ヵ所、絵具が軟らかくてブヨブヨしている。…Read More

絵のなかの散歩<関根正二「魚」>より

・・・・・・・・・  電車に乗ると、私はすぐに包みを解いた。 「あ、こら関根だ、うんと若い頃だな」  絵を手にとって一目見るなり、伊東さんはそう言った。あんまり簡単に断定されて、却って私は拍子抜けがした。何時頃の作品か、…Read More

気まぐれ美術館「横雲橋の上の雲」より

 保土ケ谷の釜台住宅の「しま鮨」という鮨屋さんへ先日、十一月に入ってまもなくのある晩、私は、鮨を食いにではなく、佐藤清三郎の話を聞かせてもらいに、そこの主人の小島さんに逢いに行った。小島さんは新潟の人で、戦前、新潟で銀行…Read More

画廊から(峰村リツ子個展)より

 この間、こんどのこの個展に並べる絵を決めに峰村さんの家へ行って、峰村さんの出して見せてくれる絵で20点ほど決めたあと、私があちこちアトリエの中を引っ掻きまわしていると、私の顔を描いた4号の絵が出てきた。 「これ、どうし…Read More

「中野坂上のこおろぎ」より

・・・・・・・・・  絵だけの絵というものの凄さを、やはりこの二月、私は館林の市民会館で、藤巻義夫の「隅田川絵巻」を見て痛感した。痛感しながら、同時に、一種の戦慄を感じた。 ・・・・・・  絵巻はどの部分をとっても、はっ…Read More

「四畳半のみ仏たち」より

・・・・・・・・・・・・・。  いろんな人の意見を綜合すると、このガンダラ仏は紀元二、三世紀のもの、ガンダラとしては後期のものになるらしい。それには着ているものの襞の具合がどうとか、顔の輪郭がやや丸顔であるとか、いろいろ…Read More

「雪の降り方」より

・・・・・・・・・・・・。  七郎さんが持ってきていたこんどの新しい画集を、私は飲みながらあちこち開いて見て、七郎さんと別れたあと、部屋に入ってから丁寧に見た。見はじめると頁を閉じることができず、前の晩ろくに眠っていない…Read More

「画廊から」-現代画廊 田島隆夫 彩墨画展-

 田島さんの絵が一年一年、確実によくなって行くのを見ると、私は、一本の樹が一年一年、根を深く降ろして行くのを見るような気がする。つまり、物を見る田島さんの眼が深くなって行くということだろうが、その深くなって行く行きようが…Read More