海野 清

福島に行ってきた

「本日休館」第18号(2011年夏号)です。

3月11日からの、なんとも言えない「もどかしさ」は一体なんだろう……「言葉がない」そんな中、4月24日の早朝、たまたま、NHK教育TV「こころの時代/辺見庸・瓦礫の中から言葉を」を見ることができました。今頃になってやっとわかりかけてきたような気がします「もどかしさ」の中身について。

以下はその番組での辺見庸の言葉です。

「僕らはまだ3.11から時間がそれほど経過していないので、正直、呆然自失していると思うんです。その理由は、その破壊の大きさと、あのダイナミズムをあらわす言葉を誰も持っていなかったということだと思うんです。それを言い表す言葉が数字以外にないということは、こんなに実は淋しいことはない。皆さんが待ち望んでいるは、水であれ、食料であれ、暖房かもしれない。と同時に、胸の奥に届く言葉でもあるような気がしているのです。それは決して、がんばれとか団結とか復興とか、通り一遍の言葉をスローガン的に言うことではない」

「今流されているテレビのニュースの言葉。あそこに事態の本質に迫る、本質に近づこうとする言葉はあるだろうか。今、表現されている新聞の言葉の中にこの巨大な悲劇の深みに入っていこうとする言葉があるだろうか」

「焼け爛れて撓んで、水浸しになった言葉をひとつひとつ屈んで拾い集めて、大事に組み立てていって、何か新しい言葉にする。言葉というのは単なる道具ではない。言葉というのは人に対する関心の表れだ」

「自分たちが、あるいは失われた命が、世界のどういう位置にいるのかということを分からせてくれる言葉を発することができれば、人の魂、今生きている魂、そしてこの宙に浮かぶ亡くなった人の霊がもっと休まるのではないか。それを持ち合わせていないから、こんなにも不安で、切なくて、苦しくて、悲しくて、そして虚しい、空漠としているんだ、と私は思う」

6月26日(日)・27日(月)、福島市に住む友人の紺野幸夫クンに会いに行って来ました。
26日の昼に東北新幹線福島駅東口で待ち合わせ、そのまま彼の車に乗り込んで、国道115号線で相馬市に向いました。紺野クンが夏にはよく訪れていたという相馬市にある民宿がどうなっているのか見に行くことにしていたからです。途中、ホットスポットとして名前が出てくる伊達市などを通り過ぎて行きました。警察車両や自衛隊の車が多く、よく行き交うのですが、規則なのか、彼らは必ずマスクを着用していたのが印象的でした。

運転をしながら、紺野クンが3月11日から数日間に起きた家族の事、親戚・友人の事、福島第一原発の事、放射能汚染の数値とその影響、などなど様々な出来事を話してくれました。聞きながら福島に住む人たちは、そこまで追い詰められているのだ、という事をはじめて知りました。当事者でないと理解できない状況が未だに続いているのです。福島の人たちは切羽詰まった現況をもっと発言した方がいいし、マスコミも、もっと大きく取り上げて欲しいと思いました。

相馬市中心部に入ってからは、「アー」「ウー」と言葉にならない、うめき声しか出ませんでした。未だにたくさんの船が田んぼの中で横転している。地形のせいか、場所によって津波の被害を受けた所とそうでない所がはっきりしている。潮干狩りの名所・松川浦をしばらく眺めていました。

帰りは6号線を南下、南相馬市から国道12号線で、閉鎖した飯舘村役場前を通り川俣町に出て、福島市内に戻りました。

車のなかではフランス語の歌がずっとかかっていました。私も聞いたことがある一曲がありました。紺野クンは「藤圭子の声に似ているだろう。『父の日のプレゼントなにがいい?』って聞かれたから、このCDを頼んだ」と言っていました。確かにかすれたような歌声は魅力的です。
「なんていう歌手?」
「オレもよく知らないんだ。『ゼット、エー、ゼット』って書いてある」

静岡に帰ってきてから調べました。

歌手の名はザーズ(ZAZ=本名イザベル・ジュフロワ)、デビューアルバム「モンマルトルからのラブレター」(原題は「ZAZ」)。私が聴いたことがある曲は、このCD2曲目「私の欲しいもの(Je veux)」でした。どんな内容の歌詞なのか、ちょっと気になった。

あるブログで訳詞をみつけた。
「 Je veux (私が欲しいのは)」=歌詞邦訳

ホテル・リッツのスィートルームをくれるって?!そんなもの私にはいらない!
シャネルの宝石をくれるって?!そんなもの私にはいらない!
リムジン車をくれるって?!あたしに、それをどうしろっていうの?
使用人を雇ってくれるって?!あたしに、それをどうしろっていうの?
ヌフシャテル(スイスの富豪の街)のお城をくれるって?!そんなもの、あたしには向いてない!
あたしが欲しいのは、愛情と、生きる喜びと、幸せな心・・・
あんたのお金が私を幸せにするんじゃないのよ。
あたしは、胸に手を当てて野垂れ死んだってかまいやしない。

お行儀の良さなんて、もううんざりだ、あたしには出来っこない。
両の素手を使って食べたっていいんだ、それがあたしなんだから。
乱暴で歯に布着せずに話すけど、ごめんね。
偽善なんてもう終わりだよ、そこを出て行くのさ。
もういいかげんうんざりさ、嘘と偽善の二枚舌。
あたしを見てみなよ、いずれにしてもそんなものは欲しくないんだ。
それがあたしなんだ・・・ あたしが欲しいのは、愛情と、生きる喜びと、幸せな心・・・
あんたのお金が私を幸せにするんじゃないのよ。
さあ一緒に行こうよ、あたしが見つけた「自由」を見せて上げる。
あんたの持っている偏見を全てすてちまいなよ。
わたしの「現実の世界」へ・・・ビエン・ヴェニュ( ようこそ )。

魅力的なのは、ハスキーな歌声だけではなく、歌詞にも彼女の精神性・行き様が見事に表現されているよ うに感じられます。

げんしりょくはつでん?! そんなもの私にはいらない!

次回は10月末の更新予定です。ではそれまでごきげんよう。