洲之内徹

「蓮根とルーベンス」

………
…………  風景ということでは、私の方にも、考えていることがひとつある。原風景ということを考えるのだ。瀬戸内海で生まれた岑さんや私にとっては瀬戸内海が原風景だという意味ではない。それとはちょっとちがって、生まれるときから眺めてきたその時々の風景の、長年に亙る記憶の堆積のようなもの、そのようにして私たちの心の中に形成されたひとつの内面の風景、一種抽象的といってもよく、あるいは風景自体といってもいい風景が、私の言う原風景である。そして、どこへ行ってどんな風景を前にしても、人はその背後に自分のその原風景を見ているのだ。探がしているといってもいい。そのようにして、人間の心は常に原風景へ回帰する。それが郷愁というものではないだろうか。風景の意味を更に広げて考えるなら、芸術とはすなわち郷愁なのかもしれない。
…………