洲之内徹

「トドを殺すな」

さらば気まぐれ美術館

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その辺でその晩は打切りということになったが、話の途中のどこかで「命は棒に振るためにある」という言葉がひょっと出た。話のどこへ繋がっていたのか分からないが、これは書きとめておく必要があるだろう。

友川さんは中原中也の弟を識っているらしい。「シローさん」というその弟から友川さんが聞いたという話もだいじな話だ。その弟が子供の頃、とはいっても中学生くらいだろうが、あるとき、兄の中也と歩いていると、兄が彼に向って「ああいう風景を見ても、すぐスケッチしたり、言葉にしようと思うな。だまって感じていればいいんだ。その感じる力を養えばいいんだ」と言ったというのである。友川さんは「その言葉が自分としては最高の教訓だ。いまだに、何歳になっても色褪せない。だいじにしている」と言う。

中原中也の言葉を聞いたのはよかった。私は、友川さんの言う理想ということも、実践ということも、こういうことと考えてみることもできるなと思った。そうすればよく分かる。何かをどうかしようとするよりも、より深く感じること。感じる力を養うこと。――私にとっても大切な言葉だ。