洲之内徹

「海辺の墓」

「元来、コレクションをしようという気も、私はなかった。コレクションというのは、まず金持でなければやれないというのが自明の大原則で、金もないのに蒐集をしようなどとは、どだい無理な相談だとは初めから承知していた。それに、これはあとになるほど身に沁みてよくわかったきたことだが、画商という職業と蒐集とは、当然のことながら、二律背反的に矛盾しているのである。もっとも、画商をやったからこそいろんな絵にめぐりあえたということもあり、商売柄、交換で目的の物を手に入れるということもできたのだが、とにかく、私には、売るに忍びないという絵がいつもあって、売らずに済むものなら売らずにおいた。その結果、これだけはどうしても売りたくないという絵が少々と、誰にすすめても誰も買わないという絵が多数残った。これが私の疑問符つき、あるいは括弧つきコレクション成立の由来である。

だが、そうやって残った絵が一堂に並んでいるのを見て気のついたことがある。いわゆる何々コレクションというのとはちがった妙な感じなのだ。何々コレクションにはぜったい入ってないような片々たるものが、却って幅をきかせている。小説でいえば私小説というところか。ただ、こうして見ると、私が絵というものをどう見ているかが、私自身の眼にはっきりするのである。その意味では、これはやはり私のコレクションと言っていいのかもしれない。サブタイトルの「洲之内コレクション」も、あれはやっぱりあれでいいのだろう。」