海野 清

『奇蹟の画家』 ~この一冊★本日休館コレクション No.7 


 昨年(2016年)12月初旬、神戸・三宮のハンター坂沿いにある、ギャラリー島田で開催されていた「石井一男展」を見てきました。

石井一男展ポスター画像

石井一男展ポスター



 到着したのはお昼すぎくらい。地下の展示室へ降りて中を覗くと、5,6人が絵を見ていました。こじんまりしたギャラリーで、入館していつものように「一番欲しい」と思う絵を探しました。

 「サムホール」(約23㎝×16㎝)と呼ばれる絵の大きさを表す言葉を初めて知ったのは、この本だった次第ですが、ひとつの壁面にその「サムホール」の絵が横に5枚、縦3列、計15枚がきれいに並べて展示されていました。グワッシュ(この言葉も、本によって知りました)という絵具で描かれているそうです。

 15枚の絵をしばらく眺めていましたが、真ん中の列の左から2枚目の絵が、一番欲しいと思う作品でした。特にタイトルもついていなかったので、勝手に「15のなかの母子像」と名付けました。縁があればいつか我が家の壁に飾る日がくるかもと、その時を楽しみに待つことにして、ギャラリーを出ました。

 「石井一男展」は毎年11月から12月にかけて開催されているようです。ギャラリーの壁には今後の展覧会予定が、下記のように掲示されていました。

 2017年6月21日(水)~28日(水) ギャラリー枝香庵(東京・銀座)
 2017年11月25日(土)~12月6日(水) ギャラリー島田

ギャラリー島田(神戸三宮)のエントランスのスナップ

ギャラリー島田(神戸三宮)のエントランス




ギャラリー島田の地下展示室入口のスナップ

ギャラリー島田の地下展示室入口




 神戸夙川学院大学の学長も務め、大佛次郎賞などの選考委員でもあるノンフィクション作家の後藤正治による『奇蹟の画家』は、講談社創業100周年記念の書き下ろし作品として刊行されたもの。古書としては、今でも、どこからでも購入できる一冊です。
 2009年12月第1刷発行、2012年11月には文庫本にもなっています。私が2016年の4月に藤枝市の古書店で購入したものは2010年2月第2刷ですが、ずっと手元においておきたい本のひとつです。

 読み終えたのは初夏でした。神戸のギャラリー島田は、洲之内徹との関わりがあったようで名は知っていましたが、石井一男という画家のことはこの本に出会うまで、TV番組の「情熱大陸」で取り上げられたことも含めて、まったく知りませんでした。

 石井一男と島田誠の出会いを軸に、石井の絵を求める人々の心の裡にあるものなどを通して石井の絵と生きざまを伝える評伝ノンフィクション。こんな画家がいるんだ、こんな画廊主がいるんだ。その絵を心の拠り所とする人々がいる・・・。読み終えたとき、実物の絵を見たいと思ったのです。

 描く絵はもちろんですが、自分の絵の説明をなにもしない画家・石井一男という人に惹かれました。また同時に、もうひとりの主人公であるギャラリー島田・島田誠という人の言葉(「蝙蝠日記」からの引用)は、いつか私がしようとしているものに対して、示唆に富んでいました。
 《・・・・・私がやりたいことは「作家の居場所」「作品の居場所」を探すことだと思い至ったのです。》
 《・・・・・絵を描き続けることしか存在証明のありようもない作家たち。世の中との折り合いがうまく出来ず不器用に、しかも純粋に生きようと傷ついた魂を抱える作家たち。私の魂に切り離しがたく居ついた人々は、人生という旅の同伴者であり、また家族でもある。》

 石井一男の絵を見た印象から、リルケの有名な詩を思い出したので、家に帰ってきてから調べてみました。タイトルは「秋」でした。

 「秋」 リルケ

 木の葉 落つ。遠くより散る來るごとく、
 み空の園の枯れしごとくに、
 はらはらと舞い落ちきたる。

 小夜ふかく なべて星より
 重き土 寂寥に向いて落つ。

 われらみな落つ。これの手もまた落つ。
 見よ、他のものを。なべのものに落下あり。

 されど 一人のひとありて、この落下を
 かぎりなく やさしく そのみ手に支えたまう。
 (星野慎一・訳)

 彼が描くもの、描こうとしているものは、こういうものなのかな、と感じたのです。

お知らせ
 WEBマガジン「季刊・本日休館」は10年目を迎えました。仲間どうしの同人誌のようなつもりで始めたWEBですが、変化速度の速いインターネットに対応できないまま時を重ねてきてしまいました。そこで、10年目を期してちょっと長めの休刊をいただきたいと思います。
 そして、できれば今夏ごろには、装い・内容構成を一新し、現代に対応したWEBマガジンにリニューアルしてリブートしたいと考えています。
それまでお問い合わせ等についてもお休みさせていただきますので、どうかご了解ください。