海野 清

『静岡連隊写真集-帰らざる戦友に捧ぐ-』柳田芙美緒

 この本を見つけたのは帰宅途中に立ち寄ったブックオフ静岡中田店。昨年(2014年)の夏だったと思います。店に入ってからこの本があった棚まで一直線でした。以前からそこにある事がわかっていたかのように・・・。
 棚から取り出してパラパラと何回かページを捲っていると、扉に「贈 柳田芙美緒」のサインが。すぐにレジに持っていきました。すると店員さんが「函も欲しいですか?」と訊いてきました。函? 何のことか思っている間もなく「これですが……」と、ヤケて変色しているボール紙で作られた外函を手に持ってきました。
 「一緒にお願いします」と言って、その函に本を入れてもらい家路につきました。店内には10分間もいませんでした。その時のことを思い返すと、今でもとても不思議な感じがします。

『静岡連帯写真集』の函

 柳田芙美緒は旧帝国陸軍静岡連隊付きカメラマン。静岡市内で写真館を開業しながら、連隊と共に中国大陸・ジャワ島・スマトラ島などに従軍、戦場や兵士の日常を撮影した。この本の最後に「わびしき年輪」と題された短い自己紹介があります。そのまま転記します。

 -静岡県志太郡西益津村大覚寺上、出身。父なし。母柳田タカを失い、自殺を図り果たせず。昭和五年静岡連隊第九中隊に現役入隊、一年帰休。陸軍歩兵一等兵。加藤まさを氏に書生入門、画道ならぬ写真の初歩を学ぶ。兄の一を失いて家郷に帰る。反逆放浪の途中、増田次郎氏を知り、考え方を人間愛におきかえる。長男の真理を失い、断酒、従軍。後に、軍属奏待。南京居留民団長、南京難民区々長。本名、新間二三雄。現住所、静岡市浅間町。

 子どものころ、柳田芙美緒宅は私の実家の斜め向かいにあり、大柄で日本人ばなれしたその姿・風貌をよく見かけていました。そればかりか、お宅に何度か遊びにいった記憶が、おぼろげながらあります。そして長女の柳田眞由美さんは、病弱だった幼い頃の私にリンゴをすりおろして飲ませてくれた人でした。こども心に「こんなにおいしいものがあるのか」と思ったのが深く記憶に残っていて、いつか機会があったら御礼を言おうと、ずっと思い続けていました。

 その眞由美さんの手によって、2007年8月、静岡市葵区の静岡県護国神社内「柳田写真室」で、父芙美緒氏の遺作写真展が開かれていることを新聞で知り、次男を連れて見に行きました。ここでは詳しくは記しませんが、私にとって、眞由美さんとの忘れられない再会となりました。

 柳田芙美緒生誕100年にあたる2009年には、その足跡を多くの人に知ってもらいたいという趣旨で、静岡新聞社から「静岡連隊物語-柳田芙美緒が書き残した戦争」が出版されました。
この本は未発表原稿も含めた彼のエッセイ集になっていいて、そのなかに次のような記述があります。

 「いつからか、私は、命令されたまま写真をとるのに倦いた。自分自身の目で見たものを撮影したいと思うようになった。そして、兵士の身になって、戦闘を見つめたくなった。兵士たちは、私がレンズを向けると、必ず威を正す。だが、そこには虚勢があり、望郷の目が輝く。私はそれを見のがしたくない、それを故郷に伝えたいと思うようになっていった・・・」

 この言葉どおり、写真集には兵士たちの表情・すがたも多いのですが、南京近郊で撮影された中国人の子どもたち、インドネシアの娘さんを撮ったものなど、当時はどうしようもなかっただろうけれど、なぜ戦争をしなければならないのか、と考えさせられる写真がたくさん掲載されています。同時に柳田芙美緒の目線は、連隊付きの従軍カメラマンでありながら、戦闘の方ではなく人の営みに向けられているということが、写真を見ていてはっきりとわかります。

 眞由美さん、それに妹の夕映さん(柳田芙美緒三女)とは2007年の再会から2011年まで、毎年8月護国神社の会場に行き、写真を見て昔の話などしてきましたが、2012年は挨拶だけで2013年は行けませんでした。
昨年(2014年)3月に眞由美さんが亡くなったことを、後に夕映さんから聞き、残念で仕方がありませんでした。もっともっと、いっぱいいっぱい、話がしたかった。
そうして、しばらくしてからこの本を見つけたのです。

 柳田芙美緒は1987(昭和62年)8月、76歳で逝去。当「本日休館」所蔵の『静岡連隊写真集-帰らざる戦友に捧ぐ-』は昭和40年8月15日第三版の発行となっています。

 最後に、『静岡連隊物語-柳田芙美緒が書き残した戦争』にも紹介されている柳田芙美緒の詩を転載します。陸軍230連隊第3機関銃中隊の記念誌「戦友のあゆみ」に掲載されたものといわれます。

「思う」
 とにかく 私と共に歩いた数万の
 人達は かえらない
 彼等は 祖国の栄光を信じて戦った
 彼等は 生き残る人々の為に死んだ
 その人達の悲しみを背負って
 生きたいと 思う
 彼等の血の流れの上に またがって
 橋が出来た 平和のかけはしだ
 血と涙と 骨粉を敷きつめて 道路が出来た
 平和のいとなみの 細い道路だ
 しみじみと思う 平和は尊い
 しみじみと思う 平和はありがたい
 生きている事は ありがたいと思う
 せい一杯 動ける事は ありがたいと思う
 日々 死に方用意で一生懸命 生きたいと思う

「本日休館・第31号」をお届けします。
次回は7月に更新予定です。では、それまでごきげんよう。