海野 清

高価な古書

中川幸夫の自筆献呈署名

将来、ネット上で古書店をやってみたいという思いがあり、現在までに集めた古本は約1,000冊弱になります。本来は安価にて稀本を探すのを楽しみにしているのですが、今回紹介させていただく古書は、逆に高価なものです。

『中川幸夫の花』 1989年8月30日発行 発行所=求龍堂

かれこれ10年ぐらい前になります。「ブックオフ静岡城北店」でこの本を見つけたときは慌てました。お金を持っていなかったのです。価格は6,000円。
そんなに古い本ではありませんが、購入するのになんの迷いもありませんでした。ただ、その時は小銭入れしか持っておらず、急いで自宅に帰り、妻から1万円借りて再びお店に。往復に1時間もかからない場所でしたが、その間に「他の人が買ってしまうかも……」という考えもまったくなく、不思議に「これはもう私のもの」という気持ちでいたように思います。

本は函に入っており、その上からビニールで捲かれ中が見られないようになっていました。
レジ前で「念のため中を拝見させて下さい」とお願いして、ビニールを剥がし函から本を出してもらいました。
状態が良いことを確認して本を閉じようとした時、写真のように「○○○○様 中川幸夫」という筆文字が眼に入ってきました。献呈本だったのです。

「書」でも有名な中川幸夫の筆文字です。思わず声を出してしまうところでしたが、平静を装って支払いを済ませました。家に帰ってから、1万円の中身がこの本だった事を知った妻は「これ高く売れる本なの?」と聞いてきました。「この本は売る本じゃあないんだ。俺が死んだとき棺桶に入れてほしい本なんだ」と答えました。

流派に属することなく「いけばな」を志し、80歳を超えてなお極貧生活。花と向きあった中川幸夫の生き様には、深い感銘とともに勇気をいただくことがあります。この本は「魔の山」「泉」などタイトルがそれぞれについている「いけばな」が載った写真集です。
<過激で壮絶な「いけばな」>という言葉では埋められないものがここにはあり、開くときは結局「言葉」を探すことになってしまう面倒な古書でもあります。

中川幸夫は昨年(2012年)3月30日、93歳にて逝去。もうすぐ一周忌です。合掌。

1989年刊「中川幸夫の花」表紙と函

求龍堂・刊『中川幸夫の花』の上函と表紙

「本日休館 第24号(2013年春)」をお届けします。久々に、ディシー沢板さんと“休日は茶畑で”の築地政男さんに寄稿いただきました。感謝します。